2024/11/03
① 子供たちの柔軟性低下の現状
学校検診のところでも紹介しましたが、昭和時代のわれわれと比較し、今の時代、子供たちでは特に下半身の柔軟性が明確に低下しています。
診療の現場でよく観察されることですが、膝障害のない中高年以上の女性たちでは、仰臥位(あおむけ)で両膝を伸ばし、そこから片方の膝を曲げさせてみると、多くは踵が容易にお尻についてくれます。対側も同様で、もちろん正座も難なくできています。対して膝に障害がなく、正座ができるという中高生の子供たちでも、男子に限らず、女子でも踵がお尻に付かない、数cm以上離れているケースも多く見受けられます。
昭和時代とたった一~二世代でこういった差がついてしまった理由ですが、やはり生活環境の変化によるものだと私はみています。畳生活や和式トイレを使用することがほぼなくなり、膝を深く曲げて屈む必要のない生活となったためでしょう。もちろん膝だけなく、足首・股関節についても可動域の低下は明らかです。
② 柔軟性の高さとスポーツにおける有利性
スポーツパフォーマンスという点からは、下半身は柔軟性がある方が有利で好ましい
ものといえます。まずは深く屈むことで有利に働くものを挙げてみます。
ⅰ)スノーボード・スケートボード、サーフィンなど、深く屈んだ姿勢でのバランス感覚を要するスポーツでは、足関節を含めた下半身全体の柔軟性がパフォーマンス向上に相当プラスに作用するはずです。
ⅱ)バレーボールのレシーブ、野球の内野手、テニスやバドミントンなど、守備範囲を広く発揮でき、レシーブ上手な選手とは、食らいつくかのような両脚を広げ深く屈めてのプレーができるのも、下半身の大きな柔軟性があってこそ可能ではありませんか?
ⅲ)サッカーでは、脚まわりの柔軟性があるほどに巧みにステップを切ったり、相手をかわしたり、リフティングやボールコントロールもしやすくなりますし、股関節を含めた大きな動きができるほどに脚の一歩も大きくなり、陸上も含め足の速さにも通じてくれるでしょう。水泳でも足首の動きが大きいほど水をかく量も多くなり、その分タイム短縮に通じるはずです。
③ 和式生活と足関節
運動時検診のところでお話しましたが、現在は足関節を十分に反る(専門用語では背屈)ことができないため、両踵をついたままで屈めない子供たちが増えています。私の印象では、昭和の時代には一(ひと)クラス一人いるか、いないかぐらい頻度であったと思いますが、今の時代は4、5人に一人ぐらいに増えていますし、できたとしても余裕がなくギリギリでしょう。洋式生活ばかりで屈み動作をする機会がなければ、こういった子供たちが増えてしまうのはやむを得ません。
ヒトは二本足歩行であり、足底面が地面に接地できれば立てますが、上り坂であれば足底面を背屈、下り坂であれば底屈させる必要があります。したがって足関節の可動性が悪いと山道・坂道には向かないことにもなりますし、もし坂道ダッシュなどを繰り返し強いた場合には、足関節の限界近くでおこなうことで障害を招きやすくなります。また脚の前後を広げても両踵を接地できることで、転倒予防にも通じます。
正式な茶道や華道、古典芸能などではきっちりとした正座も必要になってはいますが、すでに和式トイレを経験したこともない子供たちも多く、正座を強いられることもありませんし、現代の日常生活では全く困りません。足関節の可動域低下は今の時代、仕方のないことであり、踵が浮いてもいわゆる蹲踞(そんきょ)ができれば、剣道も相撲でも困りません。
④ 和式生活と股関節
和式トイレは股関節にも大きな影響があります。両膝が胸に当たるまで屈めていれば、股関節の屈曲が自然に深くできていますし、屈みながら片足で支え、反対側の踵を浮かせば、膝が内・外へ大きく回せますし、股関節の内外旋が大きく可能となります。対して洋式トイレではそういった回旋可動域への貢献はないく、和式生活と縁のない子供たちほど、股関節の内外旋も含め、下半身全体の固さも、かなり深刻といってよいでしょう。
またスポーツ時の身体を捻るという動作ですが、みなさんは背骨が中心的に回っていると思っていませんか? 実はそれは大きな間違いで、背骨はさほどねじれません。腰椎は5個あるのですが、教科書にも記載されていますが、腰椎5個で片側5度、左右合計で腰椎全体でたったの10度なのです。5度といえば、秒針の1秒が6度ですので、もともとほんのわずかしか捻れないものだったのです。
股関節の回旋動作の低下はさほど目立ちませんが、身体の回旋動作が要求されるスポーツ動作では、それなりに影響が大きくなります。実は、各種スポーツにおける実際の回旋動作は背骨ではなく主に股関節と肩甲骨です。この点については、身体の回旋動作のところでお話ししましょう。