2024/11/03
最近、30代前半ぐらいまでの比較的若い親世代の方々で幼稚園・保育園児の病状説明に困ることがありました。それを紹介しましょう。
昨日まで何もなかったのに、朝になり、脚が痛くて歩行できないと訴え、来院された場合です。歩けないと、泣いていたのでしょう。足・膝や股関節なのか? それとも太ももやふくらはぎの筋肉なのか? まずは親、そして聞き取れるなら子供たちの訴えを聴き、小学生以下ならなかなか難しいとは思いますが、どこがどんなふうにすると痛む、何ができない、何を困っているかを確認することになります。
何も変わったことはしてないという場合でも、転倒などがなくても、よくよく聞くと、前日に遊園地へいってたとか、土・日さらには3連日スポーツクラブに参加していたという場合もあります。中には関節炎他を明確に生じている場合もありますが、診察の結果、前日に慣れないことをおこなった結果、筋肉痛と判断せざるを得ない場合があります。その際「筋肉痛で痛くて歩きづらいなんてことがあるのですか?」と質問されることがあります。
祖父母の方であれば、ウサギ跳びのあとの筋肉痛のような、と説明すればわかってもらえるのですが、今の若い親世代ではウサギ跳びの経験のない方が多く、理解してもらうのが難しい場合があります。多くは2,3日で軽快するはずですが、もちろん、股関節の血流障害等の病態も散在しますので、経過不良の場合は、再受診を必ず指導しています。
こういった痛みの訴えは関節であれば、股関節に多いのですが、可動域制限が明確にあれば、少なくとも関節炎をがあります。整形外科医としては、他にもいくつかの慎重に経過観察を要する疾患もあるのですが、単純性の股関節炎が多く、安静を守らせることで2週程度の期間で軽快する傾向にあります。但し、やはり例外もありますので、注意は必要です。
しかし、可動域制限もなく、必要に応じてX線や最近では超音波検査もおこなわれている施設も増えているでしょう。熱発もなく、患部に明確な腫脹がなく、運動時痛が主体で、検査でも明確な所見がない場合、前日の筋肉・関節の使い傷みとして、大人しくして2,3日経過をみてください、と説明することになります。その場合、若い母親に筋肉痛で歩けないなんてことがあるのですか?と不思議そうに疑問をされる場合があります。
昭和時代の部活を経験した方々なら、ご存知でしょうが、うさぎ跳びの後、翌日以降、太ももを主体に結構強い痛みがでて、何日間かは、階段はもちろん平地であっても歩行しづらい経験を何度もされていたはずで、それ以上の説明は不要です。しかしうさぎ跳びをすることのなかった世代では、なかなかそうもいかず、仕方がないのかもしれません。もちろん経過不良の場合は速やかに再受診をしていただくように指導はしているのですが・・・。
数日後前後には必ず再診する様に母親に指導はした。
また、正座のように、膝を深く曲げて座ることが、足の発育に悪く、背丈に影響すると言われていたこともある。しかしこの話は近藤四郎先生 (京大霊長類研究所初代所長)の「足の話」(p.82)によると、入沢達吉博士により大正時代にすでに関係ないものとして反論・否定されたと記されている。正座なるものが広まったのは意外に新しく、庶民生活での畳の普及に関連しており、江戸時代の元禄・享保の時代になってようやく正座が愛好されるようになったという。したがって、正座等を理由に西洋人との体型や脚長の比較を理由付けするのは、根拠に薄く、正座と身長・脚長には関連性がないと記されている。現代の健康な学生の膝にとっても、丸一日座り続けるようなものではなく短時間の習い事程度のものならば、全く不安視する必要はなく、さまざまな面からもメリットが大いに期待できるはずだと思う。
もともと学校では内科検診で、私は昭和30年生まれですが、実は昭和時代に比較し、平成以降の子供たちでは特に下半身の柔軟性の低下を
以外でも、小学生から野球やサッカー、その他各種のチームもあり、熱心に活動しています。今の時代、楽しくやらせることが重要で、指導者もできるだけ続けてもらえる施設面はもちろん人間関係も含めた環境づくりに頭を悩ましているのが実情なのでしょう。ですから、
しかし、ここまで述べてきたように、障害予防という立場からは、普段は毎日、連休となれば連日朝から夕まで、となればやはりオーバーユーズ、使いすぎ状態を招いてしまします。もし、日頃から身体の各部位の柔軟性をチェックしていれば、早期にオーバーユーズを早期に確認でき、結果障害をこじらせずにすむ可能性が高くなります。
たとえば、野球の肘障害ですが、痛みがない場合でも、障害にともない可動域が低下してしまっていることも多いのです。幼い時代は多少の違和感程度があっても、真面目な子供たちは休むことなく、続けることになります。周りの期待もあり、連休や大会が続くことで、運動量は一気に増えてしまい、どこかで限界を超え、強い痛みを生じて医療機関にやってくることになります。痛みに耐えて頑張り続けることで、逆にこじらせてしまうことになります。来院時には肘の伸び・曲がりも悪くなっており、X線検査でも骨の変化がすでに認められることも多いのです。そうなると、当分は投球制限となります。
安静によって日常生活上の痛みが改善し、必要があればリハビリをおこない、可動域の改善を確認した後、リハビリスポーツ復帰となります。もちろん同じ肘の投球障害であっても、部位によっても治りやすさも違いますし、個人差もあります。肩障害も同じです。
① スポーツ復帰
まず患部安静の後、疼痛が軽減し、自動運動スポーツに復帰させる場合、可動域の改善を待つことが原則になります。
診療サイドからは痛みが消失しても、すぐに復帰させるわけにはいかず、原則は関節の可動域が回復するまで復帰させられないし、投球フォームの改善が必要となる場合もあるだろう。選手の引退の多くの理由は年齢ではなく、怪我・障害であり、長期にわたり治療をおこなっても、十分満足なパフォーマンスが発揮できなくなった時点で引退となっているはずだ。
イチロー選手は大リーグでも相当長期間にわたり、40代半ばでも、なおもすばらしい活躍をした。大リーグに移籍したころの彼に関する報道では、いつもグランドでのストレッチにかなりの時間を割いているのをテレビ等でよくみたものだ。特別例外的な存在なのだろうが、25年以上にわたって大きな障害や目立ったケガなく、誰よりも長く、非常に過酷な環境下の第一線で活躍し続けられたのは、できるだけ早くグランドに出て、相当な時間をかけて準備運動をし、全身の可動域をベストに高めてから徐々に運動量を上げて、常に万全の体調で試合開始に臨んでいたからであろうし、試合終了後も、またシーズンオフでもそう努めていたと聞き及んでいる。
なかなか比較にはならないが、今の学校クラブ活動では、顧問の不在も問題になるようで、先生方もさまざまな対応に追われ忙しくて大変だが、準備運動の点についてはあまりにもなおざりにされすぎだと思う。
またできるだけ丁寧におこなうには、一人では十分な柔軟体操はできるはずもなく、少なくとも2人一組みできっちりおこなわないと効果は期待できない。一人でも肩や手首・足首を回したり、膝の屈伸、アキレス腱のストレッチ程度等はできるかもしれないが、体幹の柔軟体操は一人では限界があり、前屈ももちろんだが、特に背中を合わせてお互い相手を背中にのせて背骨を反らせるような背屈のストレッチは一人では絶対にできないものだ。もちろんふざけておこなうのは絶対だめだが、普段やっていれば、次第に適当な強度がわかって問題なくできるはずだ。
確かに柔軟体操自体は面白くもないし面倒だ。しかも時間ももったいないのだろうが、柔軟性が以前より低下している現在の学生においては丁寧に、時間をかけておこなうべきであることは言うまでもないだろう。
<柔軟性があればスポーツパフォーマンスも髙くなる>
部位にもよるが、柔軟性そのものがそのままパフォーマンス向上に強く直結するとみなすこともできる。そもそも筋は、その筋繊維が引き伸ばされ、その後に収縮して縮もうとした瞬間に、筋力を発揮する。現実的には単純に、より最大に伸展された瞬間に、より最大に力を発揮すると考えていいだろう。中途半端な伸展状態では、中途半端な力しか発揮できないと考えてよい。つまり身体のどこであれ、関節の柔軟性向上がそのまま筋繊維がより伸展されることになり、筋力アップに通ずる可能性が高い。
このパフォーマンスに直結する部位の代表は肩甲骨とその周辺筋だ。この部は体幹に含まれていて外見からは分かりにくいが、背骨やあばら・骨盤から起始して肩甲骨についている筋群が力強く作用してくれている。野球やゴルフのように、投げる・振るといった、腕を大きく力強く速く使うことを要求される動作では、この部を最大に生かすことがそのままパフォーマンス向上はもちろんだが、障害予防にも通じる。最近ではエンジェルスの二刀流、大谷選手の肩甲骨の柔軟性の大きさが一時話題になっていたが、カープからドジャーズへ移籍した前田投手のマエケン体操もこの部を意識したパフォーマンスであり、肩甲骨を意識して最大限にストレッチさせていると考えてよい。イチローのレーザービームも誰よりもこの部の可動性と筋力を最大に生かしたスローイングだ。幼い時にはまだ筋力が乏しくとも、この部のストレッチ運動を中心に練習を続けることで成長とともに充実していくことになる。