2024/11/11
ここでは指先の代表的な疾患である「へバーデン結節」、「腱鞘炎、バネ指」、さらに手首から先の神経障害である「手根管症候群」にまで広げて述べていきたいと思います。これらはいずれも、男性に比較して女性に多く、女性ホルモンとの関連性が指摘される傾向にあります。
しかし、私はそれ以上に別の理由もあり、実は「指先には優しい使い方」があると考えるようになりました。ここではこれまで指摘されることのなかった女性に多い理由について紹介していきましょう。
①昭和時代の少年・少女の違い
まずは少し前の時代の話です。今の若い方々にとっては、想像しづらいかもしれません。昭和時代までの子供たちの生活環境を振り返ってみます。
私は昭和30年生まれで、当時はまだまだ外で思い切り自由に遊べる時代でした。男の子たちでは屋外でボール遊び、そしてバットその他道具を振り回す遊びが多く、対して女の子たちは、屋内でのママゴトや人形遊びが主体だったと思います。
手指をみてください。親指の関節は2つですが、人指し指(示指)から小指は3つあります。女の子たちは屋内遊びが中心で、ほとんどは指先から優しく触れるように使い、足らない動きを根元の関節(MP関節)で補って使っていたと見受けられます。つまり、昭和の時代までの女の子たちは指先から使う癖がついていたと私はみています。
対して、バットや柄のある道具を握ろうとすれば、指先からではなく、自然に根元の関節から順に使っていませんか? 道具とは、その方がしっかり握りやすいのです。つまり昭和までの男の子たちでは、根元の関節からしっかり握る使い方が身につきやすかったとみてよいでしょう。
②家の手伝い
今もそうかもしれませんが、兄弟が多かった時代、一般家庭では家事、炊事や掃除など、自宅の手伝いも女の子たちが担っていたはずで、長女であるほど物心つく幼い頃から、弟や妹の世話も含め、たとえば雑巾(ぞうきん)や布巾(ふきん)を絞る、また洗い物や裁縫などもさせられており、遊び以外でも指先を積極的に使って成長しており、私は遊び以外でも男女間で指先の仕事内容に大きな差があったとみています。
女性たちはその後に成人となり、結婚し家事に専念することも多く、そのまま指先を強いて使い続けることになります。出産後は子供、そして親の介護、さらに孫ができれば、その世話をしていたはずです。赤ん坊のオムツも今でこそ紙オムツ中心ですが、2005年頃ぐらいまではまだまだ布オムツが使われており、手洗いの量も相当多かったものと思われます。
このように中高年以上の働き者の女性たちは、何十年間にわたり休むことなく朝から晩まで指先を強いて使い続けてきたものといってよいでしょう。対して男性たちは、力仕事であっても畑仕事や大工作業のように、多くがクワやカナ槌などの柄のある道具を使うことも多く、自然に指の根元から使っていたのではありませんか?
私は大きな男女差を招いた大きな理由として、こういった子供時代から大人まで、指先への大きな負荷を強いてきた生活習慣が、原因ではないか、とみています。海外のデータはわかりませんが、お持ちの先生方はそういったデータをご教授していただければ幸いです。
③平成・令和の子供たちについて
平成以降になり、街中(まちなか)では遊べない環境となりました。男女とも屋内でのゲーム遊び、そしてスマフォやタブレットなど指先を使うことが多くなりました。拭き掃除自体、雑巾や布巾を使わずキッチンペーパーの使い捨て、いわゆるコロコロが中心で、お風呂でもナイロンタオルとなり、家庭内での強く絞る作業はほとんどなくなりました。台所でも食洗機が使用され、焦げない鍋、さらに洗濯機も全自動、赤ん坊のオムツ・パンツもすべて紙製となり、見渡せばどれもこれも指先に力仕事を強いるものは激減していますし、機械化・車社会となって荷物の運搬作業も同様です。
また、タオルの絞り方にも指先に優しい握り方があったのですが、次の親指の話の中で述べることにします。最近では、30代の方々にタオルの絞り方を問うても、「高校時代の教室掃除以来、絞ったことがない?」などと、堂々と言ってくれますし、彼女らが中高年となる今後30年以降には指先の使い傷みに関わる疾患自体が激減し、男女差も狭まっていくものと私はみているのですが・・・。
④解剖学の立場から(少し難しくなりますので、飛ばしてもらってかまいません。)
指を握る際に使う筋や腱についてみていきましょう。
先端の指先の関節を曲げる筋腱ですが、深指屈筋腱のみが作用します。真ん中の関節は浅指屈筋腱も作用します。対して根元の関節は掌側骨間筋、背側骨間筋さらに虫様筋と、複数の筋が働きます。小指であれば小指屈筋や小指対立筋も協力して作用します。
つまり、骨や関節の大きさ自体も根元のほうがずっと大きいですし、働く筋の数も複数存在しています。ですから、繊細な作業はもちろん指先中心ですが、力仕事ではまず根元から、そして足らない部分を指先で補う方が、指先の負担が分散してより安全であるとみてよいはずです。
⑤指の腱鞘炎について
次は手指の「腱鞘炎」についてみていきす。
④で紹介したように、示指(人指し指)から小指までは、それぞれに深指屈筋腱、浅指屈筋腱の2本が作用し、これらは肘近くから手首を越え指先まで大人では30cm以上にわたって走行しています。これら屈筋腱には、たとえば日本刀の鞘(さや)のようなもの、つまり腱の周囲を取り囲む「腱鞘(けんしょう)」が存在しており、それらは掌(てのひら)側の指の付け根辺りでもっとも狭く窮屈となっており、腱が通過障害をおこしやすいのです。一番の原因は指先の使い傷みであることは当然でしょう。
一旦、通過障害をおこしてしまうと、真ん中の関節がカクカクして腱が引っかかり、痛みを伴うことも多く、曲げ伸ばししづらくなって、バネのように弾ねるような動きをとることもあり、バネ指ともいわれます。女性では妊娠中・更年期に起こりやすく、女性ホルモンの影響が指摘されていますが、男性でも草ひきやゴルフなどのスポーツなど、強く握る動作の繰り返しによって生じています。
軽症であれば、安静目的にテーピングや装具などによる動きの制限や、へバーデン結節と同様に根元から使うように私は指導しています。しかしかなりの割合で短期 安静だけでは容易に改善しない傾向にあり、次第に指をきっちり伸ばせなくなることも多く、確実な効果を期待して抗炎症効果の強いステロイド剤を局所麻酔剤とともに腱鞘内への注入する治療法が積極的におこなわれています。注射が繰り返し必要な場合には、腱鞘を切開して通過障害を取り除く、腱鞘切開術がおこなわれることになってしまいます。
⑥手根管症(しゅこんかん)候群
これは手首での正中神経の神経障害です。神経が周辺組織より圧迫を受けて生じることで生じることになります。
首から枝分かれした正中神経が、途中手首のひら側にある手根管を通過し、掌(てのひら)から指先に分布しています。手根管の中でこの神経が圧迫を受けることで、神経障害を生じることになります。
妊娠中・更年期の女性に多いことから、やはり女性ホルモンの影響が指摘されていますし、手首を強く・大きく酷使することも誘引として挙げられています。
ここでは別の理由もあることを紹介します。手根管の中では正中神経の周りを母指の屈筋および深指屈筋腱、浅指屈筋腱らがこの正中神経を取り囲むように走行しています。ですから、単に手首ではなく、手首から離れていても指先を酷使することが加わって悪影響を受けてしまうとみてよいでしょう。
⑦まとめ
中高年世代の女性では、力仕事であっても指先から使ってしまいがちであること、また指先を酷使することで、ヘバーデン結節や腱鞘炎、そして手根管症候群までも発症しやすい理由を私なりに新たに紹介してみました。いかがでしょう? 男女差については女性ホルモンだけではなかったのでは? というものでした。