五十肩について

 ここでは、腕の土台である肩関節における四十肩・五十肩(正式には肩関節周囲炎)から始めていきましょう。

 四十、五十といった年齢が病名についているのは、加齢によってこの年代以降に容易に肩痛を生じてしまうためです。その年代でおこしやすい理由ですが、年齢とともに肩にある変化が生じていくことが挙げられます。まずはその点から説明していきましょう。

① 四十肩・五十肩を生じる理由

 腕の上腕骨は、肩関節(正式には肩甲上腕関節、ここでは関節Aとします)で、肩甲骨と連結し、肩甲骨はさらに鎖骨とつながっています。
実は成長そして加齢と共に肩甲骨の動きは明確に落ちていきます。肩甲骨は鎖骨と骨同士で関節をつくっていますが、それ以外は胸郭と筋肉だけで連結している構造です(肩甲胸郭関節、ここでは、関節Bとします)。

 肩甲骨は幼い子供時代では非常に大きな可動域を有しています。しかし成長と共に次第に鎖骨・肩甲骨の動きは落ちていきます。幼いほどにもともと関節Bである肩甲骨は大きく動かせていたのですが、成人以降四十、五十の年齢となるにしたがい、見かけ上手や腕が同じ動きであっても、この関節Bの動きが低下していくことで、関節Aの負担が逆に大きくなります。もともと関節A自体も十分に余裕があったのですが、年齢とともに次第に低下していき、結果この年齢あたりで関節Aが悲鳴をあげることになります。
 
 そして四十肩・五十肩の症状ですが、最初は腕を前方から上、いわゆる「前になれ」の位置から上方向よりも、どちらかというと後ろに回せない、あるいは肘を外へ出して回せないとなり、服の着脱困難といった症状が先にでてきます。症状が増悪し、夜間痛も出現してしまうと安眠までも妨げられており、多くは前方挙上までも困難となって、肘を目の高さ以下しか挙げられませんので、洗髪そして洗顔までも困難となっていきます。

② 肩には「つくりからみて優しいより安全な使い方」がある

 私が思うに、ヒトの腕・肩は、より安全で傷めにくい使い方、逆により傷めやすい使い方があると考えています。私は外来診療で肩痛を訴える方に、ほぼ全員に話しています。

 まず、質問としています。肩痛をよく訴えるスポーツといえば、何を思い浮かびますか?というものです。男性であれば、かなりの方が野球の投球動作を挙げていただけると思います。次は、逆に肩痛をおこしにくいスポーツは? と訊いています。

 経験上からも間違いはないはずなのですが、起こしにくい一番のスポーツは剣道であると私は考えています。40年以上、整形外科診療をおこなっていますが、学生の剣道部員や成人以降でも剣道されている方が、単に肩痛で来院された経験はありません。(剣道経験者の方のご意見もお願いしたいと思います)

 投球動作と剣道での肩の使い方の違いをみていきましょう。両者の決定的な違いは何でしょうか。投球であれば、腕を挙げ、一旦後方に引き、肘を横へ出してから、前方へ腕を振って投げています。剣道であれば、身体の幅から肘を外へ出すことなく、脇を締め上から下へと振っています。チャンバラでは横へ肘を外にして振ることもあるかもしれませんが、剣道の素振りを見る限り、彼らは肘を外へ出すことなく、ひたすら縦、上下に繰り返し振っているはずで、いわゆる腕・肩を縦方向に主体に使っています。

 ヒトでは確かにたとえば旗を振り回すように、どの方向にも自由自在に使えるのですが、実は肩の立場からは、私が考えるに、力強さ発揮する際には原則、「肘を外へ出すな、上下に限って使え」というものが障害予防に通じるというものです。

③ スポーツ現場、日常での腕の使い方

 スポーツでも、肘を外に出すな、脇を締めろ、とよくいわれます。代表的なものはお相撲さんですね。彼らは常に脇を締め、腕を繰り返し前へ突き出している稽古風景がよく見られますし、腕に力強さを発揮させたい場合には必須の事項です。いわゆる「脇が甘い」という慣用句そのままといってよいでしょう。バッティングやテニス・ゴルフでも手打ちはだめ、身体で打てという指導も同じです。

 男子であれば、鉄棒の懸垂も数回はできた方も多いと思いますが、たとえば体操競技の吊り輪での腕を広げた十字懸垂は体操部以外の者にはできません。腕立て伏せも腕を広げすぎるとできません。学生時代の長い廊下の拭き掃除や昔のおばあさんも洗濯板を縦にゴシゴシ使っていました。腕というものは脇を締めて前方で縦に使うことが、力強さを楽に発揮できるものだったのです。

 またバレーボールのスパイクでは打点の高さを求めて上から下へと使いますので、野球の投手と異なり、連日の試合も可能となっています。ただ診療の現場ではフローターサーブで肩痛を訴える女生徒も多く見受けられます。その理由も腕を正面で腕・手を十分に挙げてその後に腕を引いてから打つべきものを、先に腕・肘を挙げず、まず横下、さらに大きく後ろに引いて、その後に腕を挙げながら打つことで生じるものとみています。

 逆に横に使う代表は、机・窓や洗車などの拭き掃除でしょう。おそらく腕を挙げて横に使うとすぐ肩がだるくなる方が年齢とともに増えているはずです。私もパーキング後の機械清算時、チケットを入れる、お札や小銭を入れたり、お釣りをつかんだり、繰り返し腕を外へ出すだけでも肩周りがすぐにだるく重くなります。私はシートベルトを外して、ドアを開け、さらに車から乗り出して身体の正面で腕を出すようにおこなっています。皆さんはいかがでしょうか?

④ 進化の立場から

 非常に大きな目線になっていまいますが、哺乳類としての肩・腕をみていきましょう。サルから直立二本足歩行へと進化したヒトとは別なる進化をたどった四足動物からみていきます。

 イヌ、ネコだけではなく、ライオン、チーター、キリンもゾウなど四足動物では前脚を前から後へ縦に使って走っています。まず横に使うことはありません。サルのぶら下がり運動も、片腕でぶら下がりながら、もう片方の腕を後から下へ降ろし、そして前と振りあげています。ほとんど横には使ってはいなかったのです。

 ですから、四足動物やサルと同様、ヒトであっても腕・肩を上下・縦、つまり身体の幅から腕・肘を外へ出さない使い方が哺乳動物に共通していることになります。確かにヒトでは腕や肩を自由自在に振り回せます。しかしそれは直立二本足となって腕が身体を支える必要がなくなり、器用に進化させた手をどの方向にでも使えるよう、肩甲骨を含めて可動範囲が広がるように進化したためです。決して力強さまでも横でさせるためのものではなかったとみてよいでしょう。

 したがってスポーツ動作ではもちろん、日常生活でもできるだけ脇を締めて使え、腕を横に使うな、が原則となります。もし横に用事をする場合は、身体ごと横を向けて、常に身体の正面でおこなうことを心がけろ、という指導になります。