肩のリハビリについて

 ここまでに五十肩や腱板損傷をテーマに、肩のつくりからみて、スポーツそして日常生活でも、肩の各種障害の予防には、腕・肘を外に出さず脇を締めつつ使うことが安全であることを説明してきました。ここでは肩のリハビリ治療について追加したいと思います。

① 肩リハビリの基本は前方向から

 肩関節周囲炎、腱板損傷、インピンジメント症候群などのリハビリについて私が診療の現場でおこなっている説明を紹介します。(もし、腱板損傷で、痛みがないにも関わらず、全く挙上できない場合は、挙上目的には腱縫合術が勧められます。ここでは動作時痛があるものを念頭において述べていきます)

 リハビリでもこれまでと全く同じ原則です。結帯動作や外転動作の痛み、つまり外から動作困難が明確にあれば、こういった外へ出したり、回すような動きは、後回しにしろ、ということです。おそらく一般のリハビリの現場では、痛がっている動作・方向を主体に改善させようとしているものと見受けられます。しかし、それは逆効果で、まずは前方からおこなうべきと私は考えています。

 基本はラジオ体操の最初の動きと同じ、腕・肘をまずは前方向から「前になれ」の位置、さらに肘を伸ばしたまま耳の近く、できれば耳の真上方向にまで肘を挙げていく、つまり「肩を前からしっかり挙げる」、これが私の考える肩リハビリの第1ゲートです。

 五十肩のところで、哺乳動物における進化の立場から、肩・腕は前方から使うことが大原則と説明しました。身体の幅から腕・肘をはみ出して使うのではなく、前方から脇を締めて使う方がより安全で効果的というものです。

 肩のX線検査でも裏づけ説明ができます。上腕骨ですが、外側に大結節という骨の出っ張りがあり、インピンジメントのところでもお話しましたが、外から挙げていくと、上方の肩甲骨の肩峰という部分と接触し、擦れやすく、障害を起こしやすくなるのがわかります。対して前方から挙げていけば、大結節が肩峰にあたりずらく、しかも手のひらを途中から上に向けて挙げていけば、大結節が後方へまわり肩峰から離れていきます。
したがって挙げにくい場合、手のひらを途中から上に向けた方が挙げやすい症例が数多く経験します。もちろん例外もありますが・・。

 
私は入浴時、湯舟につかりながら自力で挙げるのでなく、反対側の手を肘の後にあて、反対側の腕・手の力だけで、他力での挙上訓練から開始するように指導しています。痛みが出ない程度、出たとしても軽度で、その後に痛みが残らない程度から始めさせます。前方からしっかり挙げられるようになった後に、その後に外からの動きを開始することになります。

 外から下ろしていく動きですが、ラジオ体操では真横に90度以上開いて下ろしますが、痛みが強い場合、まずは前方30度程度にとどめておき、痛みにあわせて、徐々に広げていくのがよいでしょう。

 夜間痛が強く安眠が妨げられ、服の着脱にも強い痛みが伴う場合、またリハビリに強く抵抗する場合は、私は抗炎症効果の強いステロイド剤を局所麻酔剤とともに疼痛部に注入し、強い痛みを軽減してからリハビリをおこなうこととし、ある程度挙上しやすくなってからヒアルロン酸に切り替えることにしています。

 理学療法士によるリハビリでは、あらかじめ局所麻酔剤を関節内に注入して関節内の麻酔下状態でおこなう方法もよくおこなわれています。

② インナー、アウターマッスルについて

 ここまで三角筋については、全く話していませんでした。肩の挙上には、いわゆるアウターマッスルである三角筋も関わっています。棘上筋、腱板は体表面からは触診しづらいインナーマッスルです。教科書的には肩を大きく力強く使う場合はアウターマッスル中心、肩では挙上の初期動作でインナーマッスルが重要とされています。いずれにせよ、脇を締めて前方から挙上するほどに棘上筋の負担が少なくすむことには変わりはありません。

③ 肩甲骨の可動域

 肩甲骨については、リハビリ現場の理学療法士の先生方はみなさんその重要性を
熟知しているはずです。しかし対照的に、整形外科の治療の現場では、手術的治療を肩甲骨におこなうことは一部を除いてまれであり、肩甲骨の動きも、外から挙げていく以外は、さほどこだわる必要がありませんでした。

 今でこそ、肩甲胸郭関節機能として、この部位の機能の重要性を示唆されることが多くなりましたが、それは21世紀にはいってしばらくしてからのことです。一般の皆さん方にとっては、広島カープから大リーグへ移籍した前田健太投手のいわゆるマエケン体操が、わかりやすい例だと思います。この体操は、腕のもっとも土台である肩甲骨の動きを意識した体操であることは了解していただけるでしょう。

 リハビリの立場からは、やはりこの肩甲骨の動きを改善させることが重要となります。肩リハビリの基本的な方向性をまとめておきましょう。

ⅰ)まずは肩(上腕の動き)そして肘関節の可動性を確認、改善をめざす
ⅱ)肩甲骨の可動域改善をめざす
ⅲ)疼痛および画像所見の改善を待って、インナーマッスルを中心に筋トレ指導。
ⅳ)生活習慣やフォームの修正・・・使い方の原則を守る